積雪に伴う湿度の変化
北海道大学理学部地球物理学3年 学生番号22000091 藤本剛志
(1.1)目的
ここでは、Electric weather Station で得られたデータを自分のテーマに基づいて解析することを目的としている。 ただし、MATLABを用いるという条件が課された。(1.2)仮説
積雪が存在している時は、積雪の蒸発により空気中の水分が増えるため、 湿度は上昇すると考えられる。(1.3)実験の原理
積雪による湿度の変化を見るために、根雪(定義は次節参照)という事柄を導入しよう と思う。そこで、根雪前後の湿度を比べて、積雪による湿度変化を明らかにする。さらに、厳密に 検証するために、積雪のある日でかつ晴れた日と積雪の無い日でかつ晴れた日の湿度を比べてみる。 これは、降雨降雪により湿度は上昇してしまうので、根雪前後の湿度を比べるだけでは正確では ないと判断したためである。
(1.4)定義
湿度とは、空気中の水分の割合を表すものであり、根雪とは積雪の長期継続期間 (長期積雪)をいい、積雪が30日以上連続して存在した時の継続日数のことである。(2.1)使用するデータ
北海道大学理学部地球物理棟屋上にてWsで得られたデータを使用するわけだが、 このデータは付属のソフトWswin32を用いてパソコン上にグラフとして表示し、 それからcsvファイルとして数値化して使用する。(2.2)解析方法
使用するプログラミングソフトはMATLABであり、それぞれの湿度のデータを プロットし、変化を確認し、さらに考察していく。(2.3)気候状況
この節では、12月1日から18日までの気候を挙げていく。 これらから根雪記録日、積雪状況などをみてとることができる。
12/1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 |
15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 |
(図1)12月の降水量
※横軸に日、縦軸に降水量をとる。
(表2)観測時期の降雪、積雪量
(3.1)根雪日の決定
(2.3)から11日以降に積雪が続いてることが分かる。よって、12月11日 を根雪記録日と断定しよう。
(3.2)湿度の変動と分析
ここでは、本課題のテーマである根雪前後での湿度の変動を調べてみよう。
(図2)期間中の湿度の時系列
この図から根雪前後の湿度変動がどのようであったかが分かる。
一見して、明らかに根雪前より根雪後の方が平均的に湿度が高いことが見て取れる。
確認のため、根雪前と根雪後の湿度の平均値を比較してみよう。
根雪前の湿度の平均値(%) | 51.8650 |
根雪後の湿度の平均値(%) | 81.0380 |
さらに、前述のとおり、厳密に判定するために根雪前の晴れの日と根雪後の 晴れの日の湿度をくらべてみよう。下記は1日の湿度の平均値である。 なお、ここでも札幌管区気象台のデータをもって晴れの日を断定させていただいた。
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結果は若干根雪後の方が湿度が高いということになった。ただし、根雪前の データが5日分しか無かった上、12月4日の湿度だけ群を抜いて高いことを考えると平均値 は妥当な結果と言えるだろう。
(4.1)水蒸気量の比較
前節では湿度の比較を行ったが、この節では湿度という観点を変え、水蒸気量の比較を 行ってみることにする。水蒸気量の比較により、さらに分かりやすく大気中の水分量 を確認することができるからである。なお、水蒸気量を求める式は
(水蒸気量)=(湿度)×(飽和水蒸気量) |
であり、また飽和水蒸気量を求める式は
log(飽和水蒸気量)=0.02558T+0.707107 |
である。なお、この式は飽和水蒸気量の推移表から 最小二乗法で求めた近似式である。また、気温は1日の平均気温を使用した。
これら2つの式を使用して、(表4)と同一の日程で水蒸気量を求めてみた。
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この結果は(3.2)とは反した結果になったが、これは気温と共に 飽和水蒸気量も下がるという性質によるものである。つまり、根雪後は根雪前より気温が低い ため、水蒸気量も低いという結果になっているのである。
(4.2)気温との相関
さらに考察をしよう。積雪が存在しているときは、積雪の蒸発で湿度が上がる というのなら、気温が高い日ほど蒸発が活発であり、湿度も高いのではないのだろうか。 そこに正の相関があるのではと考え、根雪後の気温と湿度の相関係数を計算した。
ここでは根雪後の晴れた日、つまり(3.2)と同日の気温と湿度の相関係数を 計算した。各日の結果は以下のとおりである。
2002/12/24 | −0.1227 |
2002/12/30 | −0.2916 |
2002/12/31 | +0.0969 |
2003/1/1 | −0.5953 |
2003/1/7 | −0.6676 |
2003/1/8 | −0.9311 |
2003/1/10 | +0.4365 |
2003/1/11 | −0.3662 |
2003/1/12 | −0.7200 |
2003/1/15 | −0.8709 |
2003/1/20 | −0.7931 |
2003/1/23 | −0.9202 |
2003/1/24 | −0.8509 |
この13日間の相関係数平均 | −0.74185 |
この結果は満足いくものにはならなかった。その原因として考えられるのは、
原則的(晴れているとき)に気温が上がれば湿度は下がり、逆に気温が下がれば湿度は上がるという
事実によるものだと考えられる。
これは、気温が上がれば水蒸気量が変わらなくとも相対湿度は当然下がるということから分かる。
では、この結果を前述の根雪前の晴れた5日間の気温と湿度の
相関係数と比べてみよう。
後者より前者のほうが正の値に近ければ積雪による気温と湿度の相関の増加を
裏付けることになりえるからである。
2002/11/30 | −0.7549 |
2002/12/1 | −0.7254 |
2002/12/3 | −0.6690 |
2002/12/4 | −0.7322 |
2002/12/5 | −0.6652 |
この5日間の湿度平均 | −0.7094 |
この結果も満足するものではない。どうやら、積雪の蒸発による湿度上昇は 気温と湿度の負の相関に比べたら微々たるもののようだ。
ここまでで、積雪が存在し始めると湿度は上がるだろうという仮説は ほぼ証明できた。しかし、水蒸気量の比較などから、積雪による空気中の水分量の上昇は 確認できなかった。これは仮説を十分に満たす結果ではない。よって、積雪と空気中の水分量 はほぼ関連が無いと言える。その原因は、根雪後はほぼ気温が0℃以下になり、 積雪の蒸発を促すまでに至らないためと考えられる。札幌管区気象台の天候データ
日本雪氷学会著 「雪氷辞典」